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GNドライヴのブラックボックス

CBが武力介入を開始した2307年からさかのぼること約90年前、木星において5基のGNドライヴは完成しました。その後、開発に関わった人員はことごとく抹殺され、拠点となった探査船エウロパも破壊されることとなります。開発者たちが抹殺されなければならなかったのは、GNドライヴの存在とその製造法が万が一にも組織の外部に漏洩することを防ぐためですが、彼らもCBの一員であるならば機密の保持には同意していたはずで、ここまでの非情な措置が取られる必要があったのかと、疑問が残るところです。あるいは開発者たちの間では、GNドライヴの使い道について組織の方針とは異なる意見が沸き上がっていたのかもしれません。地球から遠く隔絶された木星での数十年という長い年月は、人の心を変えてしまうには十分と言えます。彼らは外の世界においてはすでに死者であり、帰る場所はありません。GNドライヴという世界を変え得る発明を成し遂げたにも関わらず、歴史に名が残ることは無く、武力介入の開始がまだ遠い未来の事である以上、CBによる変革を見届けることも叶いません。であるならばいっそ、このままGNドライヴを秘匿するのではなく世界にその存在を公表してしまえばいいのではないか。GNドライヴによって技術革新を引き起こし、人類の宇宙への進出を促進させることによってでも紛争の根絶は果たせるのではないだろうか。そういった考えを抱く者がいたとしても不思議ではないでしょう。武力介入の要であるガンダムマイスターたちも、決して一様の考えの持ち主ではありませんでした。

木星という過酷な環境で、GNドライヴの開発に人生の大半を費やした者たちがいかなる心境の下にあったのか、それを知るすべはもはやありません。ただ確かなことは、彼らは初めから抹殺される定めにあったということです。イオリアが遺した理論を基にGNドライヴをゼロから作り上げた彼らは、イアンらガンダムの開発者などには知り得ないCBの最高機密に触れえる立場にありました。それはGNドライヴのブラックボックスと呼ばれるものです。完成し、CBの手に渡ったGNドライヴは技術の進歩や経年劣化に伴い改良が施されることになりますが、決して停止させることができないコアの部分については、誰も手を付けることができませんでした。ブラックボックスはおそらくそのコア部に付随しているもので、トランザムシステムやツインドライヴシステム、パイロットの脳量子波を感知する機能、量子化、トランザムバーストと、のちにリボンズ=アルマークを驚愕させることとなるGNドライヴの数々の能力は、開発された時点ですでにブラックボックスに収められていたものと考えられます。それらは恐らく高度な暗号化が施され、開発者自身も自分が作っているのは一体何のためのシステムなのか、真には理解していなかったという可能性が高いでしょう。しかし開発者が生存している限りは、その記憶を基に再現することも不可能とは言えません。その時が来るまでは、いかなる者にも存在を察知されてはならない多くの超機密。それらに触れてしまったGNドライヴの開発者たちには、機密もろともに隠滅されるという道以外は残されていなかったのです。
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