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イノベイターを巡る紛争

ELSとの戦いから数年後、急激に増加するイノベイターに対して既存人類の不安感は高まり、各地で争いが勃発することになります。ついには擬似太陽炉搭載型MSを保有して武装蜂起する勢力までもが現れますが、擬似太陽炉の技術は一部が民間にも公開されていたとはいえ、その生産技術や設備は以前として連邦政府が掌握していたはずです。それにも関わらず、連邦政府と対立する勢力が擬似太陽炉搭載型MSを運用できるという事実は、おそらく軍部において大きな反乱が発生し、地球連邦軍は大きく二分されてしまったということなのでしょう。地球連邦軍はELSとの戦いにおいてその7割を失いました。それだけの犠牲を払いながらもELSとの共存を選択した連邦政府に対する反発は、特に軍において大きかったはずです。既存人類を大きく上回る能力を持つとされるイノベイターの登場と、その脳量子波によって操作される無人機の普及も、自らの立場が脅かされるという危機感を軍人たちに与えたはずで、不満を爆発させるに至ったとしても無理はありません。

しかしながら、反イノベイター勢力が連邦軍の半ばを掌握し、擬似太陽炉搭載型MSを運用したとしても、体制側である連邦軍との戦力差は埋めがたいものがあります。イノベイターを擁護する立場である現体制側は、イノベイターを戦力として堂々と起用することができます。デカルト・シャーマンがELSとの戦いで見せたような、たった一人で大部隊に匹敵する働きをするイノベイターが数人でもいたとしたら、反体制側は対抗するために数十倍の人員を割かねばなりません。そしてなによりも最も大きな要素はヴェーダの存在です。ヴェーダとの協力関係を結んだ後の連邦軍のMSはヴェーダによるバックアップを受けるようになり、性能を大きく向上させたとされています。当然ながら反体制側の機体はこのバックアップが打ち切られることとなり、CBのガンダムのようにスタンドアローンのシステムを構築したとしても、基本性能が同等の機体である以上、不利は否めません。また、情報面においても、ヴェーダの能力を借りることが出来る現体制側の方が圧倒的に有利と言えます。反イノベイター勢力がいかにイノベイター脅威論を訴えたとしても、かつて世界の世論を完全に操作していたヴェーダを越えるほどの情報発信を行えるはずもありません。

そしてCBというもっとも強大な敵が、反イノベイター勢力の前には立ちはだかっています。もっとも、イノベイター擁護という点では立場を同じくするものの、CBは必ずしも現体制側の味方というわけではありません。紛争を行っている双方に対して武力介入を行い、争いを止めるという在り方はかつてと変わっておらず、場合によっては現体制側の連邦軍とも戦うことはあるでしょう。かつてのCBとの違いは、ただ武力を行使するだけではなく、トランザムバーストによる意識共有によって戦闘停止を試みるという点にあります。トランザムバーストはその領域下の人々の意識を繋げ、対話を促し、さらにその高純度GN粒子によってイノベイターへの変革を助長するという働きがあります。反イノベイターという大義を掲げている勢力にとっては、組織内にイノベイターが発生するということは最も恐るべきことでしょう。重要な立場にある者がイノベイターへと変革してしまった場合、組織は崩壊しかねません。反イノベイター勢力はあらゆる面で劣勢であり、その情勢は紛争の終結まで覆ることはなかったでしょう。しかし紛争自体は10年以上の長きにわたって続くこととなります。これは互いの戦力が拮抗し、容易に決着がつかなかったためというわけではなく、既存人類とイノベイターとの間に決定的な断絶を生むことを避け、事態の緩やかな解決を図るために、時間かけて人々の心の変化を待つことを体制側が選択したためと考えられます。
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