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GNW-100A サキブレ

長きに渡るであろう旅への出航の時が間近に迫った外宇宙航行艦スメラギの周囲では、かつてのガンダムを彷彿とさせる意匠を持つ機体が忙しく飛び回っていました。この機体はモビルスーツではなくワークローダーであり、型式は「GNW-100A サキブレ」となっています。ワークローダーとはかつての軌道エレベーター建設の際に開発された人型重機の総称であり、その後の紛争激化に伴って武装化され、やがてモビルスーツへと発展を遂げることとなりました。スメラギには多数のサキブレが搭載されており、巨大な艦の保守整備や、航行予定の宙域に先行して安全を確認するといった任務にあたることになります。量子ジャンプによって光年単位の距離を移動するスメラギに先行する必要があることから、サキブレもまた単独での量子ジャンプを行うことが可能です。ただしそれはオリジナルのGNドライヴを搭載しているごく一部の機体のみの機能となっており、大多数のサキブレの主機関は擬似GNドライヴや粒子貯蔵タンクとなっています。CBが秘匿していた技術のほぼ全てが地球連邦と共有され、普及したこの時代においても、オリジナルのGNドライヴは希少な存在のままであるようです。それは製造に要する時間が比較的に長いということだけが理由ではおそらくないでしょう。ツインドライヴを構成して兵器としての使用された場合の危険性や、量子ジャンプが悪用される可能性などを考慮し、その製造を地球連邦が厳しく管理制限しているためと思われます。

サキブレは兵器ではないため、武装は全く施されていません。両腕に装着されたコンテナにも各種作業用ツールが収納されているのみです。このサキブレの在り方は、外宇宙に進出する上での人類の覚悟を示すものでもあります。ELSの地球来訪時には、人類側から先に攻撃を仕掛けてしまったためにELSに誤った認識を与え、大きな戦いを引き起こすこととなってしまいました。それを教訓とした人類は、未知の文明と遭遇した場合に万が一にも相手に危害を加えることが無いように、一切の武器を排除しているのです。とはいえ、遭遇した異星体や文明が、かつての人類のように一方的に攻撃を加えてくるという可能性も無いとは言えません。そういった事態を考慮し、サキブレの防御力はきわめて高いものであろうことが想像されます。その根拠となるのは、両脚部に設置された巨大なクラビカルアンテナです。

2314年時点においてもクラビカルアンテナは十分な小型化・高性能化を達成しており、その50年後ともなればさらなる進化を果たしているはずです。それにも関わらず、サキブレのアンテナは脚部に匹敵するほどの長大さとなっており、想像される粒子制御能力の強大さはダブルオークアンタさえも上回るものかもしれません。このサキブレの粒子制御能力は、量子ジャンプを行うための量子ゲートを生成、そして未知の異星体と遭遇した際にトランザムバーストを行うことを主な目的としていますが、きわめて強固なGNフィールドを展開することも可能としているはずです。戦いが成立しないほどの圧倒的な防御力。それがサキブレに許された唯一の武器なのでしょう。

胸部や両腕、両脚部に搭載されたGNコンデンサー、そして背部のコーン型スラスターなど、サキブレの機体構成は50年前のGNドライヴ搭載型MSからほとんど変わっておらず、CBが武力介入に投入した第三世代のガンダムの完成度がいかに高いものであったのかを物語っています。そのサキブレにおいて大きな特徴となっているのは、透明な球体をフレームに収めただけのような頭部です。この頭部はELS用のコックピットであり、サキブレは人間とELS、あるいはそれぞれが単独で操縦を行います。このような運用が可能であることは、ELSと人類の相互理解が十分に深まったことの証であると言えます。サキブレはワークローダーという工作機械に過ぎません。しかしその名前に込められた意味の通り、新しい時代の到来を人々に知らしめる旗手としての役割も果たしているのです。
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