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劇場版 機動戦士ガンダム00 Part.9

地球連邦政府のELS事件収束への期待は、最悪の形で裏切られることとなりました。CBが木星の軌道上に設置した監視衛星によって、大赤班上に発生したワームホールから新たにELSの大群が出現したことが観測されたのです。その数は数万体に及び、艦船クラスの大型の個体も多数含まれていました。探査船の破片が落下した際には、ヴェーダの力を借りた情報統制によって混乱を未然に抑止することに成功した連邦政府ですが、今回ばかりはそれも不可能です。木星での異変は個人がホビーの天体望遠鏡でも観測し得るほどに大規模なものであったからです。この期に及び、連邦政府はELSという地球外生命体の存在を公式に認め、ELSが地球を目的としているという現実を受け入れざるをえなくなりました。それでも連邦政府は市民に対しては、ELSは地球へは来ない、危険は無いという嘘をつき続けるしかありません。もし地球が狙われているということが一般に知れ渡れば、その理由が探られることになります。そしてイノベイターと呼ばれる人間が存在し、ELSが引き寄せているなどという情報が不完全な形で漏洩すれば、イノベイターを地球から追放してしまえばよい、などという声が上がり「魔女狩り」が起きてもおかしくはありません。仮にそのような手段が実行されたとしても、ELSが地球への来訪を中止することは無かったでしょう。ELSの目的はすでに人類そのものに移っており、イノベイターの存在はそのきっかけでしかなかったからです。

ELSの大群が地球へと到達するまでの日数が95日と計算され、CBと地球連邦軍はその侵攻を阻止するべくそれぞれに行動を起こすことになります。連邦軍が採った方策は、イノベイターであるデカルト・シャーマンとその専用機ガデラーザを送り込み、火星においてELSと接触させるというものでした。強い脳量子波に引き寄せられるというELSの性質を利用すれば、あわよくばその進行方向を変えることができるかもしれない、最悪でもELSの進行速度を鈍らせる時間稼ぎの役割は果たしてくれるだろうという期待が込められた作戦で、いずれにせよ、餌であるデカルトと随伴する艦隊は最終的に犠牲となることを前提としています。イノベイターの研究に執心していたあの技術士官などは、貴重なイノベイターを使い捨てにするかのようなこの作戦には強硬に反対したかもしれません。

CBも連邦軍の後を追う形で火星へと向かうことになります。とはいえ、CBにもELSを食い止める策があったわけではありません。ELSの量子波による干渉で依然として刹那は満足に戦うことができず、仮に戦うことができたとしても、粒子貯蔵タンク搭載型のダブルオーライザーでは膨大な数のELSを駆逐する前に力尽きてしまうでしょう。スメラギとしてもELSを殲滅するつもりなどなく、可能な限り足止めすることで、連邦軍が迎撃体制を整えるまでの時間を稼ぎ、切り札であるダブルオークアンタの完成を待つことを目的としていたはずです。しかし刹那はこの時点ですでに、ELSに対してイノベイターとしての能力を駆使した「対話」を試みることを決意していました。ELSが脳量子波によって意思疎通を行い高い知性を持つのであれば、トランザムバーストによる意識共有でELSの意思を理解することができるかもしれないと考えたのです。ELSとの接触による耐え難い苦痛を知る刹那であれば、ELSの大群との意識共有がいかに危険なことであるかは十分に理解していたはずですが、イノベイターとしての直感で刹那はすでに悟っていたのでしょう。ELSという存在に対してはいかに戦力をそろえたとしても敵わないであろうということを。
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